2022年中学入試も多くの日程を終えました。毎年、入試シーズンには「こんな問題が出た」「あんな問題が出た」と話題になりますが、社会は話題になりやすい科目でもあります。ことしの開成の入試問題では、「GAFA」の「G」にあたる企業を答えさせる問題などが出題されましたが、67問のうちの1問にすぎず、合否を分けるのはその他の多くの問題です。
中学受験社会の王道的な出題となった2022年の開成中学社会の入試問題の出題傾向を速報し、対策のあり方について分析します。
番外編として、意図してか、ミスなのか不明ですが、答えに直結する大ヒントが、次の問題に載っていたなんてケースも…。
一見、大きく変わった2022年開成の社会
オーソドックスな見た目の入試問題に
開成中学の社会は、パット見、昨年と大きく変わりました。
問題用紙のページ数は、2021年の26ページから20ページと大きく減少。特に、このところ例年出題される歴史の「史料問題」がなくなり、オーソドックスに見えた受験生も多かったと思います。
問題は、四谷大塚の「中学入試過去問データベース」が便利です。
社会(70点満点) | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 |
合格者平均(a) | 53.8 | 52.1 | 54.3 | 49.9 | 54.6 |
全体平均(b) | 48.6 | 48.3 | 50.0 | 45.9 | 51.0 |
(a)-(b) | 5.2 | 3.8 | 4.3 | 4.0 | 3.6 |
合格者平均点は、54.6点と近年5年では最も高く、合格者平均点と全体平均点の差は3.6点でこちらは過去5年で最も小さくなりました。
比較的素直な問題が多かったことから、社会に関して言えば、開成中学を受験するレベルの生徒の間では差がつきにくい結果となりました。
2022年 | 国語 | 算数 | 理科 | 社会 | 合計 |
合格者平均(a) | 45.6 | 60.7 | 54 | 54.6 | 214.9 |
全体平均(b) | 38.8 | 50.7 | 48.6 | 51 | 189.1 |
満点 | 85 | 85 | 70 | 70 | 310 |
(a)-(b) | 6.8 | 10 | 5.4 | 3.6 | 25.8 |
4科目の合格者平均点と全体平均点を比較してみてみると、合格者平均と受験者平均の差がもっともついているのは算数で、例年と同様の傾向です。
開成の入学試験は、算数・国語が100点満点、理科・社会が70点満点で、もともと社会は点差が開きにくい科目ではありますが、ことしの社会の受験者平均はパーセンテージ換算すると72%、合格者平均は78%と、非常に高い水準です。「社会はできて当たり前」「理社を苦手にしてはいけない」という、とても厳しい試験とも言えます。
4科目の受験勉強において、算数がもっとも重要なのは言うまでもありませんが、そうであるからこそ、社会のような、暗記が多くを占める科目は、早期から丁寧な学習を続け、確実に知識を積み重ねていく学習姿勢が求められます。
コアプラスレベルの基本問題が多く出題
ちなみに、近年の開成中学の社会の入試問題は、開成高校の入試問題よりも難しいという現象が生じていました。たとえば、昨年の開成中学と高校の入試問題を比較すると、サピックスの『コアプラス』の知識で解ける問題は、開成高校が約6割で、開成中学の5割程度を大きく上回っていました。ここ最近の開成中学の入試問題は、コアプラスレベルで解けるような素直な問題が少ない状態だったのです。
では、ことしの開成中学の入試問題の傾向はどうだったのでしょうか?
下の図は、開成の解答用紙を次の分類に従って色分けしたものです。
青は『コアプラス』の知識で解ける問題
緑は『コアプラス』の知識でないものの、白地図や年代問題など、すべての受験生が学ぶ知識を活用して解ける問題。
黄色は、塾で習った知識、またはその応用で解ける問題
赤は解けなくてもいい問題
としています。
得点別(配点は予想)に分類すると、次のようになりました。
青38点分:『コアプラス』の知識で解ける問題
緑14点分:『コアプラス』の知識でないものの、白地図や年代問題など、すべての受験生が学ぶ知識を活用して解ける問題。
黄12点分:塾で習った知識、またはその応用で解ける問題
赤6点分:解けなくてもいい問題
となっています。
まず、開成のような難関校でも、コアプラスなどの基本問題が大半を占めていることがわかります。
逆に、多くの受験塾では、こうした基本中の基本の問題以外に、難関校対策や時事問題対策などを行いますが、コアプラスに載っていないようなこうした問題も解けないと、合格者平均にはたどり着かないのもおわかりいただけると思います。
開成で合格レベルの得点を獲得するには、決して少なくない『コアプラス』のような知識のまとめ問題集を完璧にこなしたうえで、さらに塾で習う応用問題なども正解していかないといけないわけです。
そういう意味で、開成の社会対策としては、以下のようなことが言えます。
・難関校対策の特化した勉強もしないと合格点にはたどり着かない
ちなみに、開成受験生にとって『コアプラス』をできるようにするというのは、単にオレンジ色の答えを答えられるようにするだけではありません。
問題文に含まれたキーワードも含めて解答できるようにする、冒頭の旧国名などのカラーページから、巻末の発展知識まで、1冊まるごと知識を吸収することが非常に大事です。その意味で、コアプラスを完璧にするというのは、決してやさしい道のりではないはずです。
過去問研究の重要性
そして、中学受験では、たびたび過去問の重要性が語られます。これは、高校受験であろうと大学受験であろうと同様、オーソドックスな知識の、周到な積み重ねが大事な開成の社会でも言えることです。
たとえば、開成の社会でおなじみの「東京問題」。
東京の地理の知識がなければ解けない問題で、関西の記念受験組が得点できない問題を出題しているとも言われますが、小学校の教育課程においても、身近な地理を学ぶことになっており、地域の地理や歴史を知ることはとても重要です。
そして、ことしも、次のような問題が出題されました。
小塚原刑場は千住宿の近くにありました。千住宿は五街道のうち、 どの街道の宿場町ですか。次のア~エから一つ選び、記号で答えなさい。
ア 東海道 イ 中山道 ウ 甲州街道 エ 日光街道
この問題自体は、解けなくてもいい問題としていますが、「千住」がつく地名、例えば「北千住駅」などが東京のどのあたりにあるかがわかればかなり正解に近づく問題です。
少なくとも東海道や甲州街道が答えにならないことは目星がつくはずです。
そして、千住の方向、すなわち東京の北東方面に伸びるのは日光街道であることから、答えを導くことができます。
そのうえで、過去問の重要性についてですが、実は、この問題は、過去5年分の過去問をしっかり解いて復習していれば必ず得点できたはずの問題なのです。
開成では、これまで五街道に関する問題はたびたび出題されています。
江戸日本橋を起点に整備された五街道の、日本橋を出て最初の宿場町して誤っているものを、次のア〜エから1つ選び、記号で答えなさい。
ア 千住 イ 板橋 ウ 目黒 エ 品川
こちらは2018年の開成の入試問題です。形式は違えど、「千住」を問う問題は、たった4年前に同じ開成で出題されているのです。
この問題を解いた際、それぞれの宿がどの街道に位置するかを学び、しっかり復習していれば、今回も確実に1点を獲得することができたわけです。
また、さかのぼること2017年には、東京オリンピックのマラソンコース(のちに札幌に変更)と重なる五街道の名前を答えさせる問題が出題されるなど、五街道が現在の東京のどのあたりを通っているのかを学ぶのは、少なくとも開成受験生にとっては当然のことになっているわけです。
このほか、過去問研究をすれば、「東海道五十三次」や「富嶽百景」など、五街道と重複する出典を題材とする出題が、数年間でたびたび出題されていることもわかります。
そうした意味で、小6に入り、サピックスの土曜特訓などで行う学校別の対策というのは非常に重要になります。
あくまで、全受験生に共通する「基本」の上に積み重ねるものですが、過去問研究をしっかり行っている塾・講師のもとで、「傾向と対策」をしっかり行うことはとても大事になってくるわけです。
中学受験の社会でもっとも重要なのは地理で、開成の「東京問題」を含め、地理に明るいのは非常に有利です。
2022年の開成の地理の問題には、「日本地図」無しに各都市の位置関係を問う問題が出題されました。
多くの塾で白地図を使った指導は行われていますが、まっさらな地図をもとに、どこにどのような都市があって、どんな山脈や川・平野があるのか。
頭の中に地図を描く力は多くの学校で問われます。
こうしたときに、鉄道の知識をもとに全国津々浦々の地名を知っていることは非常に有利になります。
基本的にテレビゲームをおすすめするわけではないですが、「桃太郎電鉄」などのゲームで地理に親しむことも、効果はあります。
年代を問う問題は6問も出題 年代暗記はとても重要!
さきほど示したように、開成レベルになると、合格者だけでなく受験者全体が一定の学力を備えています。
合格のためには、基礎知識をパーフェクトな状態に持っていったうえで、いかにそこから積み上げを図っていけるかが肝になります。
この点、小6で強化するような年代の暗記も怠らないようにしたいものです。
たとえば、2022年の開成では、年代の知識を問う問題は、なんと6問も出題されています。
そのうち2問は並び替え問題です。
さらに、年代の知識があれば解けるような問題は、この6問以外にも出題されています。
【番外編】 出題ミス?次の問題に大ヒントが!!!
ちなみに、2022年の開成では、次の問題を読むと、答えの大ヒントになる問題が出題されていました。
問6の答えはエですが、国連加盟国が193か国か不安な受験生も多いと思います。
イは国際連盟の本部があった場所、ウは「常任理事国すべてが賛成する必要がある(拒否権)」の問題ですので、アかエには絞れます。
さらにアのサンフランシスコ講和会議は、日本と連合国側の戦争状態を集結させるものですので、国際連合とはまったく無関係ではあるのですが、国際連合が成立した年を悩んだ受験生もいたかもしれません。
そうした受験生が、次の問題を見てみると、四角で囲まれた問題文の中に「1948年に国際連合で採択」という表現があります。つまり、1948年の時点で国際連合は成立していたことがわかるわけです。
こんなに近くに答えのヒントが隠されていることもあるわけです。
出題者が意図してのことか、ミスなのかは不明ですが、問題文に解答の手がかりが隠されているケースは多くあります。問題文をよく読むことは大事だということを、ちょっとイレギュラーな形で教えてくれるケースでもあります。
言葉の意味を理解し、自分で説明できるようにする、時事問題も重要
ここまで開成の社会の問題を大雑把に分析してきましたが、開成の難しさは、基本の徹底が求められると同時に、過去問研究も大事であること、幅広い知識と理解が問われることです。
歴史の問題は、「疫病」をテーマにした文章ですが、新型コロナの発生以降、ほかの学校でも度々出題されるテーマをしっかり学習できているか、時事問題対策の有無も問われる問題ですし、麻布や武蔵ほどでないにしても、世の中・社会への理解・関心度を問う問題も出題されています。
2022年には、資料を読ませたうえで、「単身赴任の母親に対して、『え?母親なのに単身赴任?お子さん、かわいそうね…』といった言動の背景には、母親に対するどのようなアンコンシャス・バイアスがあるでしょうか」というような問題も、さりげなく最後の1問で出題されています。
この問題は、SDGsの目標の1つ「ジェンダー平等を実現しよう」に関連して出題されているのですが、SDGsもそうですし、多様性への理解について考えることは、多くの学校で中学受験で問われています。
開成では、SDGsに関する問題は2021年の高校入試でも問われていて、開成の先生がSDGsに対する問題意識に高い関心を示していることが伺えます。
4科目の学習をするなかで、社会に割ける時間は限られるからこそ、授業で習ったことの確実な理解を早期に図ることは極めて重要ですし、低中学年の受験生は、小学生新聞などを通じて、ニュースの知識を幅広く身につけておくことも大事です。
開成対策は、基本問題も多いとはいえ、多くの受験生はそうした問題は当たり前のように解ける環境である以上、さらなる得点が不可欠です。
対策は、決して一朝一夕にはいきません。小4、5からカリキュラムに従って知識を積み上げつつ、小6では開成に特化した対策も加え、合格力を高めていくことが肝要です。
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